七草

 目出度さや老いて互いに寝正月

 高浜虚子の新年風景である。別に老いていなくても、会社・学校が休みであるから、家族全員が時間を気にせず朝寝坊をしたり、外出もしないでゆっくり過ごせるのが正月のいいところ。
 三ガ日は、朝から女房殿公認でお屠蘇がいただける。年賀の客が来れば盃を交わせる。昼の酔いが醒めないまま夜になればチビリチビリ楽しめる。
 というわけで、左党にはまことに結構な正月だが、連日となると消化器系が悲鳴をあげる。
 一月七日は「七草粥」。七日の朝に七種類の若菜を入れたお粥を食べる風習である。
 七草には春と秋がある。両方とも万葉集に詠まれている。秋の詠み手は山上憶良であるが、春は人口に膾炙されていない。秋が野に咲く観賞用の花であるのに対し、春は野菜や食用の野草となっている。年輩の方なら「せり・なずな・ごぎょう・はこべら・ほとけのざ・すずな・すずしろ・これぞななくさ」と諳んじている方も
多いのではなかろうか。
 近年は、初売りの商戦を終えた店頭に、「七草粥セット」や七草の寄せ植え鉢が並ぶのを見かける。野の草のちんまりとした風情が、何にもまして春の訪れを感じさせてくれる。
 七草粥は、もちろん食材をそのまま粥に炊き込めばいいのだが、古くは、七草囃子を歌いながら、包丁で叩いた七草を粥に炊き込んだらしい、六日の夜には、ヒイラギなど刺のある小枝を戸口に挟んで邪気を払い、七日の朝、神前に供えてから、家族でいただく。
 『枕草子』に「七日の日の若菜を六日人の持て来、騒ぎ取り散らすなどするに…」とあり、平安時代には、正月七日に七草を食す習慣があったことがわかる。
 『日本国語大辞典第二版』によると、もともと日本には正月の初の子の日に小松を引き若菜の羮(汁)を食べるという風習があった。同じく正月の十五日は「七種粥」という七種類の穀物を入れた粥を食べることも行われていた。これが、人日(正月七日)に七種の若菜を粥にして食べるという中国の伝統行事と結びついたといわれている。
 七草のエキスは消化を助け、大腸の炎症や発ガンを抑える効果があるという。クリスマス、忘年会、新年会…。年末年始にかけて疲れた胃腸にやさしい薬膳なのである。

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