菖蒲

ゴールデンウィークの最終日はこど
もの日。連日の家族サービスで体力も、
財布も疲れ果て、菖蒲湯にゆっくりつ
かりたいお父さんも多いのでは。
 こどもの日は、かつては端午の節句
といった。端午の端は初めの意で、午
はうまの日の意。つまり月初めの五日
のことで端五とも書いた。人日(一月
一日のちに七日)、上巳(三月三日)、
端午(五月五日)、七夕(七月七日)、
重陽(九月九日)の五節供の一つで、
端午の節句には古くから菖蒲や蓬で邪
気を払う風習があった。
 菖蒲は尚武に通じるところから、中
世以降、男児出生を祝い武運長久を祈
る武家の行事にもなったと考えられて
いる。江戸時代になると、男の子のい
る家では幟をたて、菖蒲刀や菖蒲兜や
武者人形を鎧櫃の前に飾って祝った。
大人達は、菖蒲の根や葉を浸した菖蒲
酒を邪気を払うものとして飲んだ。
 ところで、菖蒲と混同される植物に
アヤメがある。文学作品では、元禄時
代(一六八八〜一七〇四)頃まで、ア
ヤメ、アヤメグサといえばショウブの
ことを指していた。端午の節供のこと
を、あやめの日、あやめの節供ともい
う所以であろう。
 また、「いずれ菖蒲(あやめ)か杜
若(かきつばた)」と言われるように、
アヤメとカキツバタの花を見て区別の
つく人は少ないだろう。これにハナシ
ョウブが加わるとますます混乱する。
 
『日本国語大辞典 第二版』によれば、
ショウブはサトイモ科だが、アヤメ、
カキツバタはアヤメ科、ハナショウブ
はショウブと名がついてもアヤメ科。
英語では、アイリス(Iris)でひとくく
りにされている。
 ハナショウブはノハナショウブを人
間が改良した園芸種。品種が多く作ら
れたのが江戸時代以降で、江戸郊外の
堀切菖蒲園は有名。ここは江戸名所の
一つで、安藤広重や歌川豊国の錦絵の
題材にもなっている。現在も二〇〇種、
六〇〇〇株の花菖蒲が楽しめる。
 よりそひて静かなるかなかきつばた
           高浜虚子
 草に咲くあやめかなしく旅遠し
           富安風生
 紫のさまで濃からず花菖蒲
           久保田万太郎
 男子の節句に添えられる花にふさわ
しく、群れて華やいでいないところが
好ましい。


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