麦酒

 キリッと冷えたビールの爽快な喉越し。プファーッ、うまい。
 仕事から開放され自分の時間に戻るための大切な儀式にしている方も多いのではなかろうか。
 ビールと人類のつき合いは非常に古く、その誕生は諸説あるが、紀元前3000年ごろにはメソポタミアのシュメール人が既にビールを造っていたらしい。やがて、エジプトに伝わり大量に造られるようになり、ギリシャ・ローマを経て、徐々にヨーロッパにも広まっていった。
 日本の文献に初めて登場するのは、『日本国語大辞典 第二版』によると、一七二四年(享保九年)八代将軍徳川吉宗の時代。「和蘭問答」に「酒はぶどうにて作り申候、又麦にても作り申候。麦酒給見申候処、殊外悪敷物にて、何のあぢはいも無御座候。名はヒイルと申候」とある。
 日本酒に慣れた舌にビールの味は評判がよくなかった。当時、日本は鎖国令が敷かれていた。外国との唯一の接点は長崎出島のオランダ商館。そこのカピタンが日本に持ち込んだものとされている。ビールはオランダ語。もし、フランスからならビエール、イタリアからだとビルラと、二十一世紀の日本では呼んでいたかもしれない。
時代は下り幕末になると諸外国から門戸開放の圧力がかかる。一八五三年(嘉永六年)、ペリーが来航した年に蘭方医川本幸民は蘭書の記載を見て、江戸の露月町の私宅でビールを試醸した。これが日本におけるビール醸造の始まりとされている。一八六八年(明治元年)に、イギリスから「バースビール」が商品として初めて輸入される。翌年に、アメリカ人コープランドが横浜の山手居留地に「スプリング・バレーブルワリー」を設立しビールの醸造を開始。主に居留外人向けに販売を行った。日本人で初めて醸造・販売を行ったのは、明治五年大阪の渋谷庄三郎。ブランドは「シブタニビール」だった。
 文明の起源とともに歩んできたビール。現代は、ラガービール、生ビール、地ビール、発泡酒など多彩な製法による、さまざまなブランドを味わえる。人生はビールの味に似てホロ苦い。でも、ちょっぴりの幸福を感じさせてくれる液体に、改めて乾杯!

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